小山ゼミ 2021年度3年Cグループ(新井 優奈、奥村 心花、近藤 主英、成田 智一、藤枝 珠紀 )
本稿はゼミ論文の概要を簡潔にまとめた「サマリー」である。
1.問題意識
2020年、新型コロナウイルスの影響により「テレワーク」の需要が急速に高まり、働く人々や経営者の意識を変えるとともに、会社全体の働き方にも影響を与えました。東京商工リサーチによる「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査の結果では、緊急事態宣言下において、テレワークを実施した企業は全国で55.96%、大企業では8割以上、中小企業においては5割以上が導入しており、コロナ禍でテレワークは大きく拡大したことが分かります。
しかし、テレワークの導入によって、様々な課題が浮き彫りとなりました。日本労働組合総連合会(連合)が2020年6月に行った調査をみると、コミュニケーション、業務効率、時間管理、人事評価、進捗管理、情報セキュリティなどの項目で課題が浮上しています。また、日経BP総合研究所イノベーションICTラボでは「新たな働き方に関する調査」として、2020年4月と10月の二度にわたって調査を行っているが、「同僚(上司や部下を含む)とのコミュニケーションに支障がある」を選んだ人の割合が、半年間で10.7ポイント増えていることが分かりました。新型コロナウイルスの感染状況が落ち着かず、テレワークが継続しているなか、現在でも課題を実感している人は少なくないと思われます。
これらの問題意識から、本研究では「テレワークに適応したリーダーシップ」をテーマとしました。テレワークにおいて、どのようなリーダーシップスキルが求められるのか、どのようなマネジメントスタイルが適しているのかを明らかにしていきます。テレワークの導入は単に働き方を変えるだけにとどまらず、ライフスタイルそのものに影響をもたらすため、一過性で終わるものではなく、今後も働き方の選択肢の一つとして定着していくと考えられます。本研究によって、テレワークを「働きやすい環境」に整え、作業効率が向上することにつねげたいと考えています。
2.仮説
テレワーク環境下で組織コミットメントを高めための、上司から部下に対する働き掛けや、組織から社員個人への支援について、以下の計5つの仮説を立てました。
【上司からの支援】
- 仮説1:メンタル面への配慮があると組織コミットメントが高い
- 仮説2:成長や学習の機会を与えていると組織コミットメントが高い
- 仮説3:情報共有のためのコミュニケーションの機会があると組織コミットメントが高い
【組織からの支援】
- 仮説4:ハード面の支援があると組織コミットメントが高い
- 仮説5:ソフト面の支援があると組織コミットメントが高い
3.調査計画
本研究では、Googleフォームによって作成したアンケートに、WEBリサーチ会社のモニター会員から回答してもらいました。調査対象は、(1)テレワーク勤務をしたことがある(または現在テレワーク勤務している)、(2)会社員、(3)20代から40代、という条件にすべて当てはまる方としました。
4.結果
仮説検証のために重回帰分析を実施したところ、結果は以下の通りとなりました。
- 仮説1「メンタル面への配慮があると組織コミットメントが高い」は支持されました。
- 仮説2「成長や学習の機会を与えていると組織コミットメントが高い」は支持されました。
- 仮説3「情報共有のためのコミュニケーションの機会があると組織コミットメントが高い」は支持されませんでした。
- 仮説4「ハード面の支援があると組織コミットメントが高い」は支持されませんでした。
- 仮説5「ソフト面の支援があると組織コミットメントが高い」は支持されませんでした。
5.考察
テレワークでは「メンタル面に対する上司の支援や配慮」「学習機会の提供」が重要であることが明らかになりましました。一方で、「コミュニケーションの機会」「ハード面の支援」「ソフト面の支援」は組織コミットメントを高めることにはつながらないことも分かりました。これらの結果から、テレワークにおいて組織コミットメントを高めるためには、テレワーク環境に関する支援ではなく、企業の社員に対する(ならびに、上司の部下に対する)姿勢や施策が重要であることが分かりました。部下の情緒に配慮し、成長や学習の機会をつくることがテレワークにおいては欠かせない要素になります。これらのことは、今後日本企業にテレワークを定着させるうえで重要な要素であると思います。