小山ゼミ 2019年度3年Aグループ (安生・進藤・伊藤・神澤・齋藤)
本稿はゼミ論文の概要を簡潔にまとめた「サマリー」である。
1.問題意識
近年、国の留学生30万人計画など高度外国人材の流入を促進する政策が展開されており、今まで以上に多くの外国人材が日本企業で働く機会が増えることと予想されます。
そこで、上司は外国人材に対してどのようにリーダーシップを発揮すればよいのでしょうか。従来の日本企業は同質化を好む傾向がありましたが、それを外国人材に強要することは個性発揮を妨げてしまいます。外国人材の新しい意見を組織活性化につなげるという、ダイバーシティ・アンド・インクルージョンの観点が大切だと考えています。
以上の問題意識から、本研究では外国人材を部下に持つ日本人上司に着目し、どのようなリーダーシップが外国人材の個性を引き出し、企業のイノベーションに繋げることができるかを明らかにしたいと考えて研究に取り組みました。
2.仮説
本研究では、日本企業において外国人材に対するどのようなリーダーシップがイノベーションの創出につながっているのかを明らかにします。具体的には、「インクルーシブ・リーダーシップ」という概念に着目しました。インクルーシブ・リーダーシップとは、組織構成員が個性を発揮し、同時に組織にも貢献することを支援するリーダーシップです。インクルーシブ・リーダーシップには4つの要素があるとされ(Mor Barak,2017)、それは(1)一人ひとりの個性の認識、(2)異なる視点を追求することの奨励、(3)目的・目標の共有化、(4)参画のための動機づけ、というものです。
そこで、日本企業において、「日本人上司が外国籍社員に対してインクルーシブ・リーダーシップを発揮していれば、その職場はイノベーションを創出している」という仮説をたてて分析しました。
【インクルーシブ・リーダーシップの4要素】 参考:Mor Barak(2017)
(1)一人ひとりの個性の認識
(2)異なる視点を追求することの奨励
(3)目的・目標の共有化
(4)参画のための動機づけ
3.調査計画
以下の調査対象者の条件に当てはまる外国人材の方に、Googleフォームでアンケートに回答していただきました。質問項目は、外国人材の属性(基本情報)、上司のインクルーシブ・リーダーシップ、外国人材の貢献によるイノベーション等を設定しました。
【調査対象者】
(1)海外出身であり、国籍が日本以外
(2)日本企業で働いている
(3)正社員である
その結果、回答者は19人でした。回答者の属性(基本情報)は以下の通りです。
【国籍】 | 人数 |
中国 | 8 |
マレーシア | 2 |
韓国 | 2 |
オーストラリア | 1 |
ベトナム | 1 |
ネパール | 1 |
アメリカ | 1 |
スペイン | 1 |
アラビア | 1 |
カナダ | 1 |
合計 | 19 |
【勤続年数】 | 人数 |
1年未満 | 1 |
1年以上3年未満 | 4 |
3年以上5年未満 | 3 |
5年以上7年未満 | 2 |
7年以上10年未満 | 4 |
10年以上 | 5 |
合計 | 19 |
4.結果
今回の調査では、回答者が極めて少なかったので、当初予定していた統計解析による仮説検証はできませんでした。
ただし、参考として、相関分析を実施したところ、例えば以下の組み合わせで有意な正の相関がありました。
- 「私の上司は、私の得意なことを把握している」(一人ひとりの個性の認識)と「職場で私の提案が採用される」
- 「会議において私の意見が反映される」(異なる視点を追求することの奨励)と「私のアイディアで業務プロセスが改善された。」
- 「私の上司は、私の意見が他人と異なっても認めてくれる」(異なる視点を追求することの奨励)と「私のアイディアで既存の商品・サービスが改善された。」
- 「私の上司は、私の意見が他人と異なっても認めてくれる」(異なる視点を追求することの奨励)と「私のアイディアが新商品・新サービスの創出に繋がった」
- 「私の上司はメンバー全員と積極的に情報共有をしている」(目的・目標の共有化)と「私が上司の期待を超える成果を出した時、その要因を見つけ職場メンバーと共有する」
- 「私の上司はメンバー全員と積極的に情報共有をしている」(目的・目標の共有化)と「職場で私の提案が採用される」などの組み合わせがありました。
- 「私の上司は、部門の目標に向けて積極的に行動することを期待している」(参画のための動機づけ)と「問題に直面した時、私が考える解決策が反映される」
- 「私の上司は、部門の目標に向けて積極的に行動することを期待している」(参画のための動機づけ)と「私の考えた従来にはない意見・考えが反映される」
5.考察
今回の調査では、回答者数が少なかったために厳密なことは言えません。ただし、分析結果からは、 仮説である「日本人上司が外国籍社員に対してインクルーシブ・リーダーシップを発揮していれば、その職場はイノベーションを創出している」について支持される可能性あることが示唆されました。つまり、インクルーシブ・リーダーシップはイノベーションの創出につながると言える可能性があるということです。
今後は、アンケート回答数が増えるように調査計画を改善して、さらに研究を進めていきたいと考えています。